あの日、息子は張り切って出かけていきました。
はなです。
校長先生から教わった「約束の仕方」
先日、家に女の子が突然ついてきた一件(→その話はこちら)のあと、校長先生がちゃんと二人に教えてくださいました。
「遊びに行くときは、家に帰ってランドセルを置いて、お母さんに許可をもらってから行くこと」
それを聞いた二人は、じゃあそうしよう、ということで。
学校で待ち合わせをすることにしたそうです。
ちゃんと段取りを組むようになったんだ、と少し感心しました。
校長先生のお話を聞いたあとで、自分たちでルールを考えて「じゃあ学校で待ち合わせにしよう」という答えを出した。小1なりに考えたんだな、と。こういう育ちを見ると、子どもって意外とちゃんと物事を理解するんだな、とあたたかい気持ちになります。
見送るまま、ちょっとだけ不安
「学校で待ち合わせ」と聞いて、わたしはすぐに水筒の防犯ブザーを付け替えました。
学校の敷地内だから大丈夫、たぶん大丈夫、でも念のため。
「ちゃんと待ち合わせ場所で待ってるんやで」「知らない人についていかないで」と言い聞かせて見送りました。
本当に女の子が来るかな、とちょっとだけ気になりながら。
出かける前の息子、すごく張り切っていました。「行ってくるー!」って声が、いつもよりワントーン高かった。久しぶりに一緒に遊べると思って、楽しみにしていたんだと思う。そのときのキラキラした顔が、後から思い出すと余計に切なくなります。
しばらくして、息子が戻ってきた
出かけてからしばらくして、玄関のドアが開きました。
思ったより早い帰宅。
「……どうした?」
息子は、泣きそうな顔をしていました。
でも泣かない。涙は出ていない。ぐっとこらえているような顔で、ただいまも言わずにリビングに入ってきました。わたしも「ただいまは?」と言えませんでした。今日だけは、そこじゃない。
女の子は来なかった
「来んかった」
一言だけ言って、ソファーにどさっと座りました。
そのまま何も言わずに、自分で用意していたお菓子の袋を開けて、テレビをつける息子。
お母さんに止められたんだろうな、とすぐわかりました。
まだ入学して間もない。一人で外に行くには、小さすぎる。女の子のお母さんの判断は正しいと思う。
でも息子はそんな事情、わからない。
ただ「来てくれなかった」という事実だけが残っている。
待って、待って、来なかった。その間、息子は学校でどんな気持ちで待っていたんだろう。「もうすぐ来る」「もうちょっと待ってみよう」「……やっぱり来ない」と、少しずつ気持ちが変わっていく時間。想像するだけでしんどくなります。
何も言えなかった
「大丈夫?」と聞こうとして、やめました。
「また今度遊べるよ」と言おうとして、やめました。
なんとなく、今は何も言わないほうがいいと思って。
しょんぼりしながらお菓子を食べる息子の隣に、黙って座りました。
テレビは適当にアニメがかかっていて、息子はそれをぼうっと見ていました。お菓子を食べているのに、全然おいしそうじゃない顔をしている。ただ何かしていないと落ち着かなくて、手が動いているだけみたいに見えました。
「かわいそう」と言いたかったけど、言ったら泣かせてしまいそうで。
黙って、ただ隣にいました。
これも、いい経験
待って、来なかった。
それだけのことだけど、息子にとっては初めての「約束が破られた経験」だったかもしれない。
約束を守ること。守れないときもあること。相手にも事情があること。
全部、これから少しずつ覚えていくんだろうなあ。
子育てリサーチで読んだ話で、「小さい子どもの『がっかりする経験』は、感情のコントロールを育てる大事な機会」というものがありました。何でもうまくいくわけじゃないと知ること、そのがっかりをどう乗り越えるかを体で覚えていくこと。それが「感情の体力」になっていくんだとか。
今日の息子は、お菓子を食べながら黙ってテレビを見ることで、その気持ちをとりあえず収めようとしていた。それがこの子の「がっかりとの付き合い方」だったのかもしれない。それでいい。
寂しそうな横顔を見ながら、「かわいそう」と「これでいい」が半分ずつわたしの中にありました。
後から「また誘おう」と言ってた
夜、お風呂に入る前に、息子がぽつりと言いました。
「また誘ってみようかな」
「そうだね」とだけ答えました。
立ち直り、早い。さすがです。
うちの子って、引きずらないんだな、と思いました。感情の切り替えが早い。それも息子の個性なのかもしれない。多動傾向がある子は、気持ちが切り替わるのも早いという話を聞いたことがあって、こういうときは助かります。
しっかりがっかりして、翌日またチャレンジしようとしている。
それが一番の「経験になった」という証拠だな、と思いました。
「待つ」ことを学んでいく
小1って、まだ「待つ」ことが上手じゃない。
「今すぐ遊びたい」「今すぐ一緒にいたい」が優先されて、「じゃあ明日にしよう」がなかなか受け入れられない。
息子もそうで、「待ち合わせして待ってたのに来なかった」という体験は、「待つことの意味」を初めて身をもって知った瞬間だったかもしれません。
約束は、する側だけじゃなくて、守られる側にもある。
破られることもある、でもそれには相手の事情がある。自分だけの世界じゃない、ということを6歳の体で学んでいる。
ソファーでしょんぼりお菓子を食べていた息子の横顔、きっとずっと忘れないと思います。
親だから代わってあげることはできないけど、あのとき隣に座ったことは正解だったと思っています。何も言わなくてよかった。ただいればよかった。
子育てで「何もしない」を選ぶのって、意外と難しいんですよね。何かしてあげたくなる気持ちをぐっと抑えて、ただ横にいること。それがこの子には一番よかったんだと、今は思えます。
はなより