わが家の朝は、長いあいだ「戦場」でした。
入学してしばらくトラブルが続いて以来、息子は毎朝「学校に行きたくない」と言うようになりました。着替えも、朝ごはんも、持ち物の準備も、ぜんぶがのろのろ。私が「早くして!」と急かせば急かすほど、息子の動きは遅くなる。気がつけば時計は登校時刻ギリギリで、ほとんど毎日、遅刻すれすれの滑り込みでした。
「あと5分で出るよ」「靴下は?」「給食袋持った?」——毎朝同じセリフを何回言ったかわかりません。玄関でようやく靴を履いたと思ったら、今度はしゃがみこんで動かない。抱えるように連れ出した朝も、一度や二度じゃありませんでした。
「今日も行けないかもしれない」
朝が来るたび、私の心のどこかにその不安がありました。仕事の時間も迫っているのに、息子の気持ちを急かしていいのか、待つべきなのか。毎朝が小さな綱渡りでした。
校門の前で、足が止まる
やっとの思いで家を出ても、それで終わりじゃないんです。
学校に着くと、息子の足は校門の前でぴたっと止まる。門をくぐるまでに、また時間がかかる。ようやく門を通っても、今度は玄関までの数十メートルをのろのろ、のろのろ……。
後ろから見ている私は、「がんばれ、あと少し」と祈るような気持ちと、「なんでうちの子だけ」というやるせなさが、毎朝ぐるぐるしていました。
たかが門から玄関まで。他の子なら数十秒の道のりが、息子にとっては、とてつもなく長い道のりだったんだと思います。
毎朝、先生が門の前で待っていてくれる
そんなわが家の朝を変えてくれたのが、ステップアップ教室の先生でした。
体験に通うことが決まってから、先生は毎朝、校門の前で息子を待っていてくれるようになったんです。
先生は息子と他愛ないおしゃべりをしたり、そして——絵本を読みながら、一緒に教室へ向かってくれるんです。
初めてその光景を見たとき、私は思わず立ち止まってしまいました。ランドセルを背負った息子が、先生と並んで、絵本をのぞき込みながら歩いていく。あんなに門の前で固まっていた息子が、です。
「続きが気になる」が、背中を押してくれる
不思議なもので、今の息子は門の前で一瞬立ち止まることはあっても、そのまますんなり玄関の中へ入っていくようになりました。
先生が一緒だから安心、というのはもちろんあると思います。でも、それだけじゃない気がしていて。
どうやら息子、絵本の続きが気になるみたいなんです(笑)。
考えてみたら、絵本って「今日はここまで」と区切られると、続きが気になって仕方ないですよね。まさかその「続きが気になる」が、登校しぶりの息子を毎朝学校へ連れて行ってくれるなんて。どんな声かけよりも、どんなご褒美作戦よりも、効いているかもしれません。
「今日はあの本の続き、読んでもらえるかな」。そんな小さな楽しみが、あの重かった足を、前へ前へと動かしてくれている。「学校に行く理由」なんて、大人が思うより、ずっとシンプルでいいのかもしれません。
あんなに毎朝「行きたくない」と泣いていた息子に、「学校で楽しみなこと」ができた。それだけで私は、朝の景色がまるで違って見えるようになりました。
一対一の時間が、息子を変えていく
ステップアップ教室では、先生と一対一でお話をする時間もあります。
大勢の教室の中では、周りに気を取られたり、焦ってトラブルになったりしがちな息子。でも一対一なら、落ち着いて自分の気持ちを言葉にできる。ステップアップ教室で受ける授業も、息子なりに楽しく学べているようです。
「今日は先生とこんな話をした」「こんなことをやった」。帰ってきて話してくれる内容に、少しずつ「できた」「楽しかった」が増えてきました。
帰り道は、鬼ごっこの「延長戦」
そして最近、息子がよく話してくれるのが「休み時間」のことです。
「今日も鬼ごっこしたよ!」
どうやら鬼ごっこにハマっているようで、毎日のようにお友達とやっているみたいです。
しかもこの鬼ごっこ、ときどき帰り道にまで延長戦があるんです(笑)。お友達と「まてー!」と走り回りながら帰ってくる。
そして面白いのが……うちの息子、だいたい鬼なんですよ(笑)。普通、捕まえたら交代なのに、「もう1回鬼やる!」って自分からまた鬼をやりたがる。もう、走り回りたいだけなのかもしれません。
そんな息子でも、一緒に遊ぶお友達は楽しそうに遊んでくれています。その光景を見て、「あぁ、学校の休み時間も、きっとこんな感じで遊んでるのかな」と、少し安心した私です。
教室の中の息子の姿は、親には見えません。だから不安になることも多いけれど、帰り道の楽しそうな笑い声が、「学校でもちゃんと楽しくやってるよ」って教えてくれている気がします。
不安はある。でも、成長はもっとある
正直に言えば、不安はまだたくさんあります。
このまま順調にいくのかな。また何かトラブルが起きるんじゃないかな。夏休み明けはどうなるかな……。考え出したらキリがありません。
でも、今のわが家には、それを上回る「嬉しい」があります。
門の前で止まっていた足が、動くようになった。「行きたくない」の代わりに、絵本の続きを楽しみにするようになった。帰り道に、鬼ごっこで笑い合えるお友達がいる。
ひとつひとつは小さいけれど、ぜんぶ、少し前のわが家では考えられなかったことです。
毎朝門の前で待っていてくださる先生には、感謝してもしきれません。先生にとっては、たくさんの仕事のひとつかもしれない。でもわが家にとっては、あの毎朝の数分が、息子の「学校は怖くない場所」を作ってくれています。
子どもって、無理やり引っ張っても動かないけれど、安心できる場所と人があれば、ちゃんと自分の力で歩き出すんですね。息子が教えてくれた、大きな気づきです。
同じように、朝の「行きたくない」に悩んでいるお母さん、お父さん。うちの息子も、門の前から動けない子でした。でも今、絵本を読みながら笑って歩いています。焦らず、その子のペースで。一緒に見守っていきましょうね。
はなより